日々の緊張・イライラとみんなどう向き合ってるの?
緊張・イライラ対策のスペシャリストに聞いてみました。

『ココロを軽くする体操・姿勢・呼吸の方法』 中村 格子先生 『ココロを軽くする体操・姿勢・呼吸の方法』 中村 格子先生

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練習で100回やって100回成功しても、
1回の試合で失敗することもある

私の現役時代を振り返ると過度に緊張するタイプではなかったのですが、幼い頃から体操を続けていて、試合で緊張して失敗するという経験も重ねてきました。練習で100回やって100回成功しても、いざ1回の試合で失敗してしまうこともある。それが試合なんですよね。理想は、試合でも練習と同じ気持ちで、普段通りに演技ができること。でも、細かい動きも採点の対象となる体操競技は、本番で理想の演技をしても100点満点を出すことが難しい競技です。ですから、本番の緊張の中でも常に80〜90点の演技ができるかどうか「安定力」が必要になります。そのためには、色々なケースを考えながら練習に取り組むことが大事なんです。

自分で考えて練習することで
「安定力」が身につく

試合では審判がいて、観客もいて、練習とはまったく違う環境で演技をしなければなりません。その中で安定感のある演技をするために、日頃から審判や観客の視線があることをイメージして、自分が思い描くいちばんよい演技に努めるというトレーニングを行います。そうして、試合の緊張感の中でも安定したパフォーマンスを発揮する技術を身につけるわけです。後にロンドンオリンピックで金メダリストになる内村航平選手が大学に入学してきた時、彼に日本代表合宿への参加を勧めたのも、練習の取り組み方を学ばせることが理由のひとつでした。トップレベルの選手たちの練習を見ることで、考えて練習することの大切さを実感できるのではないかと。私も現役時代そうだったように、世界やメダルという目標に向かって、自分で考えて練習ができるのとできないのとでは全く違う。そのことに自分自身で気づくことで、もっと成長していけるだろうなと思ったんです。

調子が良くても悪くても
とりあえずやってみることが大切

演技を始めて着地ポーズをするまで、試合通りに全種目の技をやることを「通し練習」といいます。大切なのは、とりあえずこの通し練習をやってみること。限られた時間の中で、できるだけ数をこなしてみることで、調子が良い時の失敗、調子が良くない時の失敗、それぞれの原因が見えてくる。良い時悪い時の両方を体で感じながら、次の練習に活かしていくわけです。いろんな状況やパターンで練習をしておけば、本番で緊張して思うように体が動かなくても、それに対応できるチカラが身につきます。そして、試合を重ねて経験を積み、結果もついてくれば、モチベーションや自信につながる。それにはやっぱり、調子が良くても悪くてもひとまずやってみる、日々の練習が欠かせないのです。

オリンピックという大舞台
プレッシャーを集中力に変えて

オリンピックや世界選手権では、もちろん緊張感はありましたが、合宿で練習に練習を重ねていましたから、不安要素もなく、悪い意味でのプレッシャーは感じなかった。プレッシャーを集中力に変えることができていたと思います。失敗を考えずに、良いイメージで臨めていました。現在は、そうした自分の経験と照らし合わせて指導を行っています。選手それぞれの個性や練習過程を踏まえ、試合に向けた目標を示し、それをクリアさせて次へつなげていく。試合前にかける一言も状況に応じて様々です。順調に練習を積んできたのに試合で急に緊張している選手には「なんとかなるよ」と前向きな言葉をかけたり、不安要素を抱えたまま試合を迎える選手には「ひとつひとつの技を丁寧に演技しよう」とアドバイスしたり、選手が集中力を高めて、思い切って試合に臨めるようにサポートしています。

スランプや不調は
まず原因を見つめ直すことから

体操の技は、昨日できていたことが今日突然できなくなったりするんです。そこには必ず何かしらの原因があります。例えば、睡眠不足で生活が不規則になっていたり、食生活が乱れていたり。そのせいで疲れが抜けずに、朝からダルさを感じてしまう。そうすると、ストレスが溜まってイライラする。やる気も下がる。さらに、周りがうまくできていると不安にもなる。そういう悪循環が生まれていたりする。それを指して、本人は「スランプだ」と言うかも知れませんが、客観的に見れば「それはそうなる」原因がある。そこから抜けるには、自分の現状を理解して、今自分が目標に向かってやるべきことを考えて、コツコツやっていくしかない。それははっきり言って面白くないことですが、それを怠らずにできるかどうかが大切だと思います。

緊張はするものだと受け入れて、
今なにをすべきかを考える

緊張を完全になくすことはできないと思います。慣れも必要だとは思いますが、まずいろんなケースに対応できるように、色々なパターンを練習して準備しておくこと。そうして初めて、緊張する場面でも「なんとかなる」と思い切れるようになるんだと思います。例えば、仕事のプレゼンなどでも、話すべきことや時間配分を組み立てておくことが大事ですよね。試合を想定して練習するように、プレゼンの流れを考えておく。準備した上で失敗するのも、貴重な経験です。もし、急に何かを話さなければならない場面でも、いかに冷静になって言うべきことを考えてまとめられるか。うまく話せなかったとしても、きちんと考えて話せば、相手には伝わるものです。緊張はするものだという前提で、自分で考えられるかどうかが大事なポイントだと思います。

PROFILE

日本体育大学准教授・体操競技部男子監督
畠田 好章 先生
1992年 バルセロナ五輪出場(体操団体銅メダル獲得)
1996年 アトランタ五輪出場
現役時代は、2度のオリンピック出場や世界選手権でのメダル獲得など数々の輝かしい成績を残す。
現在は、世界のトップで活躍した経験を活かし、日体大の監督として、オリンピック金メダリストの内村航平選手、白井健三選手など多くの選手を指導。
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